裏切り者
裏切り者だよ あんたは
こんなに早い お別れが来ると思わなかった
だから
裏切り者だよ あんたは
布団の中で眠ったような君をなでてみる
髪はまだ 生きてる時のよう
顔も若かった面影を 残したまま
出棺の片棒を担いで 葬儀会社の車に乗せる
ビジネスでやってる人たちは 淡々として マニュアル通りさ
裏切り者だよ あんたは
子供たちが泣いても 目を覚まさない
優しい思い出ばかり 残しやがって
僕より若いあんたが 先に逝くなんて
おやすみ
君はリビングで横になっている
ケータイを握りしめたまま
高校生活は大変かい?
毎朝早く起きて、部活もやってるからね
晩ご飯を食べたら 眠くなるよね
何か 夢を 見ているのかい
見ているような 表情はないな
よっぽど疲れているんだろうか?
眠りに落ち込んでいるだけのような君
おやすみ
しばらくは
起こさないよ
今日一日を 精一杯すごしたんだろう
疲れたよね おやすみ
おれたちに明日は無い
貧乏だって 若ければ 希望もある
明日を信じて 生きてゆける
そうだろう?
何もなくても 若さがある
それが一番の財産さ
馬鹿らしいことに 悩んでも
時間が解決してくれるさ
そうだろう?
何もなくても 元気はある
それが一番大事なのさ
それが いつのまにやら
すてきな時間はだんだん少なくなって
年寄りには 時間がないから
遠い未来は 考えられないから
嗚呼 何の希望があるだろうか?
今、この時がすべてなのさ
おれたちに明日は無い
プロムの夜
卒業パーティーに君を誘ったよ
君とダンスしたいんだ
作りたてのタキシードで
君をエスコートしたいんだ
3年間の思い出は どうだったかい?
君はいつも輝いていた
持ってきた髪飾り
気に入ってくれるかな?
高校最後のパーティーの始まりだ
一杯飲んだら 汗を流そう
疲れたら 夜風にあたるのもいいさ
これからも一緒に話してくれるかい?
君は僕のクイーンさ
これからもクイーンさ
さあ もう一度
一日の終わりに
僕はヘッドホーンで音楽を聴きながら
君たちを見ている
今日は塾の講義だったんだね
もう夜中の11時を過ぎている
楽しそうに会話する君たち
僕はポルノの曲で何も聞こえない
でも 聞こえなくても 分かるよ
今日一日が 良い日だったことは
キッチンで洗い物をしながら
授業の中身、ホワイトデーのお返しなど、いろんなこと
たわいない会話で楽しそう
今晩はもう食べなくていいの?
いろいろ食べてきたみたいだね
はやくお風呂に入ってね
僕も後で入るから、、、
でも ゆっくりで良いよ
ゆっくりで良いよ
卒業
何からの卒業?
誰からの卒業?
分かってるのは ここにはもう戻れないってこと
校門で バカ話して 「じゃ明日ね」と言って別れた日々が終わる
近くのラーメン屋に入ったり 大判焼きを食べた日も
好きだった人 今どうしているかな
話もできずに 終わった恋
卒業できるのかな?
あのころの自分から、、、
君に歌ってるんだ
悲しい恋の歌が好きさ
誘うような唄も好きさ
君に歌ってるんだ いつも
言える訳もない言葉も 歌なら言える
僕の好きな どんな歌だって
誰かがいないと むなしく響くだけ
そりゃ 楽しいだけの 歌も良いさ
それも すぐ虚しくなるけどね
だから 君に届くように
愛の歌を 歌ってるんだ
気付いて・・・
君の微笑
初めて会ったときに
君が微笑んでくれたから
好きになったのさ
僕の愛車 シルビアに乗って
鳴門海峡を見に行ったよね
何を話したのかは覚えていない
オーストラリアの教会で
二人だけの結婚式を挙げたよね
記念写真は幸せそう
それから随分の時間が経ったけど
忘れないで欲しいんだ
君の微笑は僕のしあわせ
二人がいつまでも続きますように
帰郷
真夜中のパーキング
ぽっかりと満月が浮かんでいる
僕は実家へ向かっている
休憩所で一服さ
淡路島を抜けて 鳴門大橋を渡る
初めて君に会いに行った道
出産の里帰りで送った道
たくさんの荷物を詰め込んで
子供を連れて帰った道
「おつきさまがおっかけてきてる」って
小さい娘は言ってたね
何回もかよった道だけど
思い出は 繰り返されない
「すぐ帰って来て」 の母の言葉に
時の流れを思う、 帰郷
まだ 大丈夫
まだ 大丈夫
まだ 待っていてくれよ
悪夢
僕は走っている
汚れた街のなかを
奴らに追われているんだ
逃げて走り回っている
巨大な迷路
どこにも出口はない
ただ怯えて走っているだけ
周りの追手を気にしながら
怖かった 怖かった
嗚呼 怖かった
突然 ぽっかりと大きな穴が開いて
僕は放り出された
無限の奈落に堕ちてゆく
手を伸ばしてもつかまるものなどない
僕の体は打付けられて ばらばらになったんだ
ばらばらに
なったんだ
死んだ僕は浮かんでいる
大きな宇宙のなかで
怖かった 怖かった
嗚呼 怖かった
たまらず 大声で叫んでみると
・・・ 目が醒めた
止まった時
そこには 動かない時計があって
いくつも 動かない時計があって
ばらばらな時間を示している
ぜんまい仕掛けの古い時計や
オルゴール仕掛けの時計もあるが
どれも 動いてはいない
嗚呼 その古ぼけた柱時計は
僕が生まれた時の 記念の品だね
もう 時を
知らせることは ないけれど
畳に横になって 眺めている
あるじのいなくなった部屋
沢山の時計は記念品
動かない
遠い記憶
さようなら おやじ
さようなら